3月9日[金]〈YIDFF 2017 アンコール4:ニンホアの家〉

2017年の映画祭で上映されたインターナショナル・コンペティション作品から選りすぐりのものを上映する金曜上映会アンコールシリーズの4回目。今回はドイツのフィリップ・ヴィトマン監督による『ニンホアの家』を上映します。併映は1991年のアジア・プログラムで上映されたチャン・ヴァン・トゥイ監督の『思いやりの話』。どちらもベトナムの家族や市民の生活を追った作品です。ご期待ください。

『ニンホアの家』 14:00- 19:00-(2回上映)

『ニンホアの家』

山形国際ドキュメンタリー映画祭 2017 インターナショナル・コンペティション上映作品

監督:フィリップ・ヴィトマン/ドイツ/2016/108分

作品紹介:

固く閉じられた窓、人気のない廊下、使われてない家具ーーヴェトナム南部ニンホアにある家は、かつてそこに暮らし、ヴェトナム戦争で離散した家族の記憶を抱く。鶏の鳴き声、水田の手入れといった穏やかな日常が営まれる「家」と、もう一軒の新しい「家」。死者に呼び寄せられるかのように、ドイツとヴェトナムに離れていた一家は、長い時を経て二つの「家」で再会し、故人の手紙、昔の写真、霊媒師による降霊といった不在者の断片を拾い集める。3世代にわたる「家の記憶」が紡ぎ出す家族の物語。

 

『ニンホアの家』

監督のことば:

『ニンホアの家』は、ある移民の家族の歴史を、故郷に残った者の視点から描いている。その視点と同様、製作チームとしての私たちの位置づけも特殊なものだった。すなわち、私とグエン・フオン・ダンは、家族集団の中の異物として、そして同時に、異なる生活を送るドイツの親戚の代表者として、国を超えた家族の壊れやすい共同生活に目を向ける。ただ、初めてヴェトナムを訪ねた2005年当時から、私の非力な状況は少しも軽減されなかった。というのも、私は常に言葉を翻訳してもらう必要がありながら、しかし映画の言語へ翻訳する者でもあったから。

『ニンホアの家』で私たちは、ドキュメンタリーの分野における実験的なアプローチとして、俳優ではない人々による演劇的な手法を試みた。すなわち私たちは主人公である女性たちとともにドラマツルギー的、内容的な枠組みを設け、その枠内においてカメラの前で即興的に日常生活が行われるという方法を採った。

その際、日常生活からひとつの核となる部分が抽出され、言葉にならない、わずかに示唆される一族の歴史の一部が、徐々に追体験できるようになるのである。必然的に私たちは、作劇上のクライマックスなどは放棄することとなった。物語は、家族の生活という水面に、ほとんど気づかないほどの波しか発生させないからだ。

この家の中で時間は循環しているように見え、過去や未来へ向かう印象を与えるものはほとんどない。聞こえてくるさまざまな言葉ーー日々の対話、過去の手紙の朗読、ひそやかな愛国主義者Tiepからの報告書を読む声、電話、村の役場の社会主義的なラジオのお知らせーーこうした様々な声が、遠くかけ離れた時間や場所、そこに属する人々の間の記憶を呼び覚まし、ひとつの断片的な物語へと結合されていく。

1975年と2014年。ニンホアとボン。ヴェトナムとドイツ。生者の世界と死者の世界。これらの呼び起こされた記憶の弾道の一部を、飛行機であり、原付バイク、電車、手紙、写真、電話、供え物、死者の夢、死者との対話などが担っているのである。

フィリップ・ヴィトマン

 

『ニンホアの家』

 

『思いやりの話』 16:15-(1回上映)

『思いやりの話』

山形国際ドキュメンタリー映画祭 ’91 アジア・プログラム上映作品

監督:チャン・ファン・トゥイ/ヴェトナム/1986/45分

作品紹介:

ヴェトナムにおいて、独自のペレストロイカを試みた時代に作られたドキュメンタリーである。一見すると市民の生活の仕方と、個人の道徳観念について描く映画である。とはいっても、この表面上のテーマは監督の真の意図を隠している。その意図とは、現在におけるありのままの国の状態(貧困により絶望状態にあり、ほとんど勢力を失った国)をみせることである。監督のチャン・ファン・トゥイは、ドキュメンタリーの映画作家は国民の熱望を映画に反映させなければならないと信じている。この映画の中には、この監督の思想を捉えており、大変興味をそそるシーンが一つある。スタッフがレンガ工場に近づいたとき、オーナーは外に飛び出してきて、こう罵倒する。「わたしは、お前ら映画人にはうんざりしているんだ。お前らは何もかもでっちあげいるだけじゃないか。わしたちのありのままの生活をみせれるものなら、みせてみろ。お前らは何もかもでっちあげて恥ずかしくないのか」と。このシーンをみるだけでも、一見の価値がある。

YIDFF ’91 公式カタログより

 

『思いやりの話』

 

[会場]山形ドキュメンタリーフィルムライブラリー試写室
[料金]鑑賞会員無料(入会金・年会費無料)
[主催]認定NPO法人 山形国際ドキュメンタリー映画祭
[問い合わせ]電話:023-666-4480 e-mail:info@yidff.jp