【山形国際ドキュメンタリー映画祭 2019】インターナショナル・コンペティション上映作品発表!
2年に一度の山形国際ドキュメンタリー映画祭の年がやってきました! アジア初の国際ドキュメンタリー映画祭として、1989年から隔年で開催されてきた本映画祭も今年で30周年、記念すべき16回目を迎えます。
山形国際ドキュメンタリー映画祭 2019 インターナショナル・コンペティションの作品募集として2018年9月1日より2019年4月15日の期間で受け付けた作品から、10名の予備選考委員により厳正な選考を行い、15作品を上映作品として決定しました! 多様性に富んだ作品群にどうぞご期待ください。
山形国際ドキュメンタリー映画祭 2019 インターナショナル・コンペティション上映作品
別離 Absence
監督:エクタ・ミッタル Ekta Mittal
インド/2018/80分
インド郊外の農村では移住労働者として都市部に出かけ、そのまま消息を絶ってしまう男たちが少なからずいるという。残された妻や母は行方不明者の面影を求めて尽きない思いを廻らせる。パンジャーブ語の近代詩に着想を得た本作は、原題Birha(別離による悲しみの意)が示すように、愛する誰かが今ここにいないということについての映画であり、あらゆる不在のイメージが重層的に描かれる。最下層に生きる人々が貧困から逃れることができない限り、女たちの悲嘆もまた深い霧のように決して晴れることはない。幻想的な空間の中でインドの過酷な現実が浮かび上がる。
ラ・カチャダ Cachada – The Opportunity
監督:マレン・ビニャヨ Marlén Viñayo
エルサルバドル/2019/81分
エルサルバドルの露店で生活の糧を得るシングルマザー5人が演劇のワークショップに参加。リハーサルを繰り返すうちに、次第に自分たちの生活、状況に向き合うことになる。それは社会全体が許容している、女性に対する不当な暴力のサイクルだった。哀しみを肥った肉体に秘めて、陽気にふるまう彼女たちは、植え付けられたトラウマを乗り越えることができるのか。彼女たちに1年半密着して、その魅力を映像に焼きつけたマレン・ヴィニャイヨにとっては初の長編監督作品となる。
十字架 The crosses
監督:テレサ・アレドンド カルロス・ヴァスケス・メンデス
Teresa Arredondo, Carlos Vásquez Méndez
チリ/2018/80分
チリ南部の小さな町で起きた製紙会社組合員大量殺人事件。軍事クーデターから数日後の1973年9月、19人の工場労働者が警察に連行され、6年後、遺体となって発見された。解決に至らない事件はそのまま闇に葬られるかに見えたが、40年後、事件への関与を否定していた警察官のひとりがその証言を覆した時、製紙会社側と独裁政権の思惑が明らかになる。いまだ「死」がそこかしこに漂う閑静な町の姿と、殺害現場に立てられた夥しい数の十字架が声にならない叫びを上げ、国家が手引きした虐殺の歴史を告発する。
死霊魂 Dead Souls
監督:王兵(ワン・ビン) Wang Bing
フランス、スイス/2018/495分
1950年 代後半に起きた中国共産党の反右派闘争で粛清され、ゴビ砂漠の中にある再教育収容所へ送られた人々。劣悪な環境のなか、ぎりぎりの食料しか与えられずに過酷な労働を強いられ、その多くは餓死した。王兵(ワン・ビン)監督は『鳳鳴−中国の記憶』(YIDFF2007大賞)と初長編劇映画『無言歌』(2010)で描いたテーマを追い続け、8時間を超える証言集にまとめあげた。生き抜いた人々が語る壮絶な体験と、収容所跡に散乱する人骨の映像から、忘れ去られた死者の魂の叫び声が聞こえてくる。
誰が撃ったか考えてみたか?(仮) Did You Wonder Who Fired the Gun?
監督:トラヴィス・ウィルカーソン Travis Wilkerson
アメリカ/2017/90分
監督自身の曾祖父が1946年に起こしたアラバマ州ドーサンでの黒人男性射殺事件。これまで親族の間でも隠され忘れ去られていたが、古い新聞記事を元に当時の状況を掘り起こし、自身の家族の闇にサスペンスタッチで迫る。人種差別主義者であり家族にも暴力を振るっていたこの曾祖父の、弱者に対する抑圧的人格を暴くことで、白人至上主義が当時も今も変わらず台頭する米国社会の病根を、白人である自分自身の問題として痛烈に提示する。『加速する変動』(YIDFF’99IC)、『殊勲十字章』(YIDFF2011IC特別賞)のトラヴィス・ウィルカーソン監督作品。
約束の地で In Our Paradise
監督:クローディア・マルシャル Claudia Marschal
フランス/2019/76分
14年前に故郷ボスニアを離れフランス東部で家族とともに暮らすメディナ。その姉妹インディラは彼女を頼って移住を試みるも、ドイツで難民拒否の現実に直面し帰国を余儀なくされる。このふたりの女性とその子どもたちが思い描く未来には、いくつもの透明な壁が障害となって立ちはだかりその実現を阻もうとする。排外主義の高まりのなかでますます居場所を失っていく人びとの横顔と、救いの手を求めて発される言葉の声を、映画はきわめてドラマティックに捉えることに成功している。
光に生きる—ロビー・ミューラー Living the Light – Robby Müller
監督:クレア・パイマン Claire Pijman
オランダ/2018/86分
ヴィム・ヴェンダースやジム・ジャームッシュの映画のカメラマンとして知られるロビー・ミューラー(1940-2018)の生涯とその仕事を辿る。『都会のアリス』や『ダウン・バイ・ロー』などの名高いショットの回顧とともに、本作はミューラーが家庭用ビデオやポラロイドカメラなどで撮影していたプライヴェートな映像を掘り起こす。家族との時間や滞在したホテルといった日常の中の光景を捉えたそのまなざしが、彼の人生と映画が地続きだったことを語ってくれる。誰もが簡単に映像を撮影できる時代にこそ観られるべき映画である。
Memento Stella
監督:牧野貴 Makino Takashi
日本、香港/2018/60分
“Memento Stella”は「星を想え」「ここが星であることを忘れてはならない」という意味の造語。現実の様々な事象を捉えた映像は、この星が光の集合であったことを思い出したかのように、微細な粒子にまで還元され、視覚と聴覚に訴える強烈なテクスチャに姿を変える。しかしそこに我々が「見て」しまうのは有史以来連綿と続く人の営みそのもの。自分がこの小さな星で生まれ、今尚生きているという当たり前の事実に気づくことになる。光と音のダンスが、既成の概念を超越した唯一無二の映像体験へと誘う!YIDFF2015IC審査員。
ミッドナイト・トラベラー Midnight Traveler
監督:ハサン・ファジリ Hassan Fazili
アメリカ、カタール、カナダ、イギリス/2019/87分
タリバン指導者について作品を作ったことで死刑宣告を受けた、アフガニスタンの映画作家夫婦が、子どもとともに欧州へ逃れるまでの3年間の旅の記録。家族がスマートフォンを駆使して撮影した旅の日常は、逃避行の不安と家族の親密さをリアルに描き出している。この作品を見る者は、未だ戦争の影響が残る不安定な社会から排斥され、寄る辺ない存在になっても続く一家の日常を、生々しく目撃することになる。
インディアナ州モンロヴィア monrovia, indiana
監督:フレデリック・ワイズマン Frederick Wiseman
アメリカ/2018/143分
2016年のアメリカ大統領選の結果を受けて、フレデリック・ワイズマンはインディアナ州の農業の町モンロヴィアを題材に選んだ。牧歌的な農場の風景からはじまって、フリーメーソンのロッジからライオンズクラブ、高校、教会、銃砲店などを細やかに観察しながら、ワイズマンは昔ながらの価値観、生活様式を護り続ける“善きアメリカ人”の姿を浮かび上がらせる。町で起きた出来事、会合、催事を軽やかにスケッチすることで、町という社会の全体像が見えてくる。アメリカを左右するほどの影響力を持つ人々の実像がここにはある。前回映画祭2017では『エクス・リブリスーニューヨーク公共図書館』を上映。
理性 Reason
監督:アナンド・パトワルダン Anand Patwardhan
インド/2018/240分
現代インドで深刻化するヒンドゥー・ナショナリズムの拡大と宗教的な対立。その状況に理性をもって抗する人間たちの姿を記録し、テレビ映像やインターネットにアップされた動画なども活用して構成された、全8章4時間の大作である。根強く残るカーストがもたらしてきた悲劇、不可触民や女性への差別を解消しようとする闘争は、テロや暗殺という手段で挫かれても失われず、詩や音楽の力に導かれて甦る。本作は、排他的なポピュリズムが招く危機的状況に警鐘を鳴らすストレートなメッセージを届ける。『神の名のもとに』(YIDFF’93IC市民賞)、『父、息子、聖なる戦い』(YIDFF’95IC特別賞)のアナンド・パトワルダン監督作品。
自画像:47KMの窓 Self-Portrait: Window in 47 KM
監督:章梦奇(ジャン・モンチー) Zhang Mengqi
中国/2019/110分
監督が長期間にわたって撮影を続ける中国山間部の小さな村。谷を見下ろす小屋の壁には、年月を経て掠れた「〇〇主義が中国を救う」の文字。監督はひとりの少女にその○○部分についての考えを問い、少女は「戦争もしてないのに、国を救う必要なんてあるの?」と問い返す。ある老人は85年に及ぶ自らの半生を語り、一方少女は村の老人たちの似顔絵を描き続ける。この映画が記録するのは、老人たちとともにやがて消えていく記憶、風景の痕跡として残る歴史や経済的衰退だけではない。この小さな村は、厳しい冬の終わりに文字通り鮮やかな色彩に染まる。『自画像:47KMに生まれて』(YIDFF2017NAC)の章梦奇監督作品。
トランスニストリア Transnistra
監督:アンナ・イボーン Anna Eborn
スウェーデン、デンマーク、ベルギー/2019/93分
ウクライナとモルドバの境界にあって、1990年に独立を宣言した小国トランスニストリア。ひと夏の時を川辺や森、ビルの廃墟で過ごす17歳のタニアと彼女をめぐる5人の男の子たち。恋と友情の危ういバランスの上のつかの間の光の輝きを、16ミリカメラが記録する。夏から秋、そして冬へと移ろいゆく季節のなか、未来への不安と故郷の自然の心地よさの間で、若者たちの感情生活は揺れ動く。生きるためには、出稼ぎか、兵士になるか、さもなければ犯罪者になるしかない。過酷な現実を前に、無限とも見える青春の時間が空に吸い込まれていく。
これは君の闘争だ Your Turn
監督:エリザ・カパイ Eliza Capai
ブラジル/2019/93分
公共交通機関の値上げ反対デモや、公立高校再編案に反対する学校占拠など、活発な政治運動を繰り広げるブラジルの学生たち。その記録映像に、当事者である3人の若者たちがナレーションを重ねていく。若者たちは、その歌うような軽快な語りとともに、学校を、そして街頭を次々と占拠し、政治家たちに自らの主張を認めさせていく。しかし彼らのこうした試みにも関わらず警察の対応はより暴力的なものになっていき、ブラジルは極右政権の誕生へと向かっていく。
ユキコ Yukiko
監督:ノ・ヨンソン Young Sun Noh
フランス/2018/70分
フランス在住の監督、生まれ育った朝鮮で暮らす母、戦時中に朝鮮人の恋人を追って日本からソウルにやってきた祖母。朝鮮戦争の渦中に生き別れ、母の記憶に残っていない祖母のことを仮に「ユキコ」と呼び、互いに薄い関わりしか持たない三人の女性像を親密に紡ぐ。母が独りで住む江華島、ユキコが人生最期の地に選んだ沖縄で、母のシルエット、日常風景、老人ホーム、摩文仁の丘が、繊細なカメラワークで重ね合わされる。二つの島で架空の物語が交わり、幾重にも声がこだまし、戦時の悲劇を呼び起こす。「記憶にない者を悼むことができるのか」という普遍的な問いが響く。