インターナショナル・コンペティション作品に続き、アジア千波万波部門で上映する21作品がこのたび決定しました。アジア千波万波部門では、2018年9月1日より2019年5月15日(消印有効)の期間で作品募集を行い、68の国と地域から943本の作品が寄せられました。

当部門は、1989年の第1回開催当時、ドキュメンタリー映画に焦点をあてた映画祭がアジアで初めて開催されるに至ったものの、アジア地域からの作品がほとんど見当たらなかったことに端を発し、アジアのドキュメンタリー作家を応援し、発表の場を生み出すことを目的とするコンペ部門として93年に設けられました(当時「アジアプログラム」)。
これまで、カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した河瀬直美監督やアピチャッポン・ウィーラセタクン監督ほか、アジア千波万波部門での上映をきっかけに、国際映画祭の舞台へと巣立っていく作家が後を絶ちません。
粗削りでもエネルギーに満ちた作品が集う熱気ある人気プログラムの、今年のラインアップを紹介します。

 

【山形国際ドキュメンタリー映画祭 2019】アジア千波万波部門21作品

『アナトリア・トリップ』 Anatolian Trip

監督:デニス・トルトゥム、ジャン・エルキナジ
Deniz Tortum, Can Eskinazi
トルコ / 2018 / 114分

は2014年大統領選前夜。イスタンブールを出発し、アナトリアを周る若者バンドが、土地の人たちと出会いながら音楽も旅も即興で進むロード・トリップ。

 

『夏が語ること』 And What is the Summer Saying

監督:パヤル・カパーリヤー
Payal Kapadia
インド / 2018 / 23分

男は蜂蜜を採りに森に入る。木々の葉をそよがせる風が、村のハンモックを揺らす。耳をすませば、失われた愛についての女たちのささやきが聞こえる。

 

『1931年、タユグの灰と亡霊』 The Ashes and Ghosts of Tayug 1931

監督:クリストファー・ゴズム
Christopher Gozum
フィリピン / 2017 / 115分

若くして農民蜂起を率いたペドロ・カロサ。サイレント、フィクション、ドキュメンタリー、交錯する映画表現が忘れられた英雄の精神の旅路を映し出す。

 

『そして私は歩く』 At Home Walking

監督:ラジューラ・シャー
Rajula Shah
インド / 2019 / 114分

現代インドの遊牧民や巡礼者の映像に、吟遊詩人の音楽と、詩的なモノローグが流れる。歩くことを瞑想になぞらえて、心の旅を映像化した実験的作品。

 

『山の医療団』 Beyond the Salween River

監督:ジジ・ベラルディ
Gigi Berardi
ビルマ、ヴェトナム、タイ / 2019 / 65分

道なき道を進み、紛争で孤立した少数民族の居住地域に医療を届ける現地主導のプロジェクト・チーム。村の若者たちも自ら学んだことを背負い旅立ってゆく。

 

『セノーテ』 Cenote

監督:小田香
Oda Kaori
日本、メキシコ / 2019 / 75分

古代マヤで現生と黄泉を結ぶと言われる泉セノーテをめぐって交差する人々の今と昔。光と闇の魅惑の映像に遠い記憶がこだまする。『鉱』(YIDFF 2015)監督新作。

 

『消された存在、__立ち上る不在』 Erased,___Ascent of the Invisible

監督:ガッサン・ハルワニ
Ghassan Halwani
レバノン / 2018 / 76分

35年前、行方不明になったある男の面影。内戦後は名もない死者として片付けられてしまった多数の行方不明者という個の存在の不在を現在に探し、刻む。

 

『エクソダス』 Exodus

監督:バフマン・キアロスタミ
Bahman Kiarostami
イラン / 2019 / 80分

アフガニスタンへの帰還を望み国境の出国管理施設に押し寄せる出稼ぎ労働者たち。家族や仕事、それぞれに事情を抱えた人々が織りなすレゲェ調「出イラン記」。

 

『愛を超えて、思いを胸に』 A Feeling Greater Than Love

監督:メアリ・ジルマナス・サバ
Mary Jirmanus Saba
レバノン / 2017 / 93分

歴史に埋もれた1970年代レバノンの工場労働者らによる労働/政治運動。社会を変えようとした当時の関係者の話や多彩なフッテージから民衆革命を掘り起こし、息を吹き込む。

 

『気高く、我が道を』 The Gracefully

監督:アラシュ・エスハギ
Arash Eshaghi
イラン / 2018 / 64分

若い頃、祭りなどで女装の踊り子として人気を博した80歳の男性。革命後に踊りを禁止され牛飼いの農夫として暮らすいまも、踊る喜びを求め続ける姿。

 

『駆け込み小屋』 Hut

監督:蘇育賢(スー・ユーシェン)
So Yo Hen
台湾 / 2018 / 54分

台湾某所にある小屋にひとり、またひとりと逃げ込んできては身の上話を始めるインドネシア人労働者。やがて小屋は人と会話で溢れかえり爆発寸前に…。

 

『見えない役者たち』 Invisible Actors

監督:チェ・ヒョンシク
Chae Hyeong-sik
韓国 / 2018 / 122 分

ゾンビ役の練習をする4人の役者。自らでドキュメンタリー演劇を作るという設定、議論の過程、日常という枠組みを取り込みながら、同時に映画を作る試み。

 

『海辺の王国で』 In Thy Kingdom by the Sea

監督:慶野優太郎
Keino Yutaro
ポーランド、日本 / 2018 / 23分

列車で飛行機で車で一路港へ。そこには、船乗り、漁師、各国から出稼ぎに来ている男たち、海軍に学生…。海に関わる様々な人生がスケッチされる。

 

『ノー・データ・プラン』 No Data Plan

監督:ミコ・レベレザ
Miko Revereza
フィリピン、アメリカ / 2018 / 70分

「母さんは2つの電話を使っている。」監督がロスから列車でNYへ向かう間の映画という旅。『ドロガ!』『ディスインテグレーション 93-96』(YIDFF 2017)監督新作。

 

『非正規家族』 Temporary

監督:許慧如(シュウ・ホイルー)
Hsu Hui-ju
台湾 / 2017 / 25分

廃墟になった工場跡で、非正規雇用の青年と年配の男女の3人が清掃し、テーブルを作って飲食する、家族もどきの不思議な空間。『雑菜記』(YIDFF 2003)の監督新作。

 

『あの雲が晴れなくても』 That Cloud Never Left

監督:ヤシャスウィーニー・ラグナンダン
Yashaswini Raghunandan
インド / 2019 / 65分

ここからそう遠くないある村の話。赤いルビーを探す子どもたちと、手づくりのフィルムのおもちゃ。村も星も子どもたちも回りながら映画になってゆく。

 

『私の家は眠りの中に』 This is My House, Come the Sleeping

監督:ハラマン・パプア
Halaman Papua
インドネシア / 2019 / 90分

その男は、毎日当たりクジの番号を組み合わせている。平穏そうな生活の中には、故郷の村を追われた惨劇の記憶とパプアの歴史がうっすらと漂っている。

 

『ここへ来た道』 Through the Border

監督:張齊育(テオ・チーユー)
Teo Qi Yu
シンガポール / 2018 / 29分

がんが見つかり余命6ヶ月を宣告された祖父。かの地中国に残した想い、この地シンガポールで築いた家族の物語を、孫娘の持つカメラは穏やかに綴る。

 

『さまようロック魂』 The Wandering Rock

監督:崔兆松(ツィ・チャオソン)
Cui Zhaosong
中国 / 2019 / 93分

1年前に相棒を亡くしたインディーロック歌手、ガンメーカー。公安に監視されながら体当たりのツアーを敢行し、矛盾だらけの現代社会で自由を咆える。

 

『ソウルの冬』 Winter in Seoul

監督:ソン・グヨン
Sohn Koo-yong
韓国 / 2018 / 25分

ホテルの一室で執筆をする青年、外では寒いソウルの街を人々が行き交う、ある一晩。小説『ソウル 1964年 冬』の語感を映画として解釈した五感の試み。

 

『ハルコ村』 Xalko

監督:サミ・メルメール、ヒンド・ベンシュクロン
Sami Mermer, Hind Benchekroun
カナダ / 2018 / 100分

監督の故郷クルドの村の男たちは欧州で働き生活している。忙しく手仕事をしながら、あれこれ話す女たちの日常の裏には、大きな「家族」の喜怒哀楽がつまっている。

 

◎ 特別招待上映作品

『自画像:47KMのスフィンクス』 Self-Portrait: Sphinx in 47 KM

監督:章梦奇(ジャン・モンチー)
Zhang Mengqi
中国 / 2017 / 94分

訥々と悲しみの半生を語る老女、絵を描く少女…。静かな村に流れる親密な時間が心に沁みる。インターナショナル・コンペティション『自画像:47KMの窓』の前作。

 

『美麗少年』 Boys for Beauty

監督:陳俊志(ミッキー・チェン)
Mickey Chen
台湾 / 1998 / 63分

同性愛の少年たちの社会との関わりと内面の苦闘を描いた、笑いと涙に満ちた作品。2011年にアジアの審査員で来形したミッキー・チェン監督を追悼。