山形国際ドキュメンタリー映画祭 2019 にてアジア千波万波部門の最高賞である小川紳介賞を受賞した『消された存在、__立ち上る不在』について、惜しくも映画祭への参加が叶わなかったガッサーン・ハルワーニ監督からいただいた受賞コメントを公開いたします。
アジア千波万波 小川紳介賞
『消された存在__立ち上る不在』
授賞式にて読み上げられたガッサーン・ハルワーニ監督のコメント全文
2011年、この映画製作をスタートした頃、とても嬉しいお誘いが舞い込んできました。小規模でも先鋭的な「ヒロシマアートドキュメント」という毎年開催されるアート・イニシアチブの展覧会に、私の初期作品を携えて参加しないかと。
広島市内を歩いていると、歩道に矢印が描かれていることに気がつきました。私の足を爆心地へと向かわせるかのごとく、その地点が爆心直下から何メートル離れているかも示されていました。
そこへは行かないと心に決めた私は、行かざるべき理由をあげては自分に言い聞かせ続けました。
しかし、それから2週間ほど経ったある日、ぼんやりと歩いているうちに、いつのまにか私は原爆ドームの前にいました。
それが何なのか、理解するまでに少し時間がかかりました。
そこで目にしたのは、原爆が炸裂した瞬間に石に刻まれた人の影。1945年、この場所に人がいたことの証を唯一示す形跡でありながら、その人の証は何も残っていないことを、私は思い知らされたのです。
この出会いが、『消された存在__立ち上る不在』という映画の概念的構造を形作るバックボーンとなりました。
この作品が、山形で上映される知らせを受けた時、大変嬉しく思いました。そして今、あらゆる時間と空間の不協和を超えて、強い共鳴が起きたことに、深く心動かされています。
この場にいないことが残念です。
ありがとうございました。
ガッサーン