この映画は、1人の家族思いの少女オラと、彼女の弟ニコデムの物語だ。14歳ながら家族の大黒柱である姉のオラは、アルコール依存の父親と自閉症の弟ニコデムの面倒を見ながら、離れて暮らす母親といつか一緒に暮らせる日を夢見ている。カメラは常に彼女の姿に焦点を当て続ける。そして、家族のゴタゴタを知ってか知らずか、淡々と「変だ、変だ、変だ」、「危機だ」と主張し続けるニコデムは、オラの希望が叶わずに終わる、この物語の結末を意図せずして暗示する。

オラはよく掃除をする。その家屋には多くの綻びが見受けられる。ニコデムが着替える壁の後ろには大きく抉られたようなホツレがあり、オラが寄りかかる壁の張り紙はところどころはがれ始めている。ちょっと触るとぐらついてしまう洗面台やうまく閉まらないクローゼット、奔放に動き回る弟、そして自分に頼りきりの父親に苛立ちながら、彼女は家中の面倒なことからそれによって解放されると信じているかのように、ハタキをかけたり、箒で掃いたりを繰り返す。

一方、不機嫌なオラが掃除中捨てようとする人形を必死にかき集め、浴室に避難させるニコデム。オラの掃除で捨てられそうになる人形たちを「救出」し、浴室に避難させ、「怖くないから、大丈夫だからね」と、彼は彼で、自分が守らなければならない対象に対して必死である。変えていこうとするオラに対してニコデムは変わらないことを望んでいる。

映画の中で唯一の過去の回想がある。それは、オラがニコデムの初聖体拝領を成功させようと躍起になっている所以だろう彼女の原風景、自分自身の聖体拝領の時の映像だ。白いワンピースを1人で着て、傍に来た母親に微笑みかけ、泣きながら1人佇む少女。家族が全員いた、幸せな記憶。そのシークェンスの前に示される、ニコデムの聖体拝領の朝、彼女はうまく上がらないファスナーに苦心しながら、不機嫌に黄色いワンピースを着ている。その後彼女の願ったとおり、ニコデムの初聖体拝領は、母親も含めたつかの間の家族の団欒のきっかけになった。だが、彼女が望んでいる理想的な過去の光景に戻ることはもうない。また、「僕は動物だ!」と何度も主張するニコデムを、聖体拝領によって変えようとしたところでそれはおそらく叶わないし、彼はそれを望んでいないだろう。戻れない過去と変えられない現実を前に、オラは問題だらけの現在に立ち向かっていく。(藤原奈緒)