10月26日[金]〈痛みと記録と物語〉
今回は、過去のインターナショナル・コンペティション作品の中から、パレスチナ人の苦悩と、ナチス占領下のポーランドの歴史を描いた2作品を上映します。1991年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞を受賞したミシェル・クレフィ監督の『石の賛美歌』、第1回目の1989年の映画祭のインターナショナル・コンペティションにて上映したアラン・アデルソン、キャスリン・ダヴェルナ両監督による『ロッツ・ゲットー』。2本立てでの上映です。お見逃しなく!
『石の賛美歌』 14:00- 19:00-(2回上映)
山形国際ドキュメンタリー映画祭 ’91 インターナショナル・コンペティション 特別賞
監督:ミシェル・クレフィ/ベルギー/1990/105分
作品紹介:
『石の賛美歌』は亡命の悲劇について扱っている。映画の国籍はベルギーとなっているが、正しくはパレスチナであろう。イスラエルの街を舞台に、この映画はその土地から切り離すことのできないアイデンティティをもつパレスチナ人であることが、どういうことかを探求しているので。ここでは彼らの生きている土地そのものが闘争の場所であり、石が武器となっている。パレスチナ人であることは自国に亡命しているようなものだ。この映画の中心となるものは恋人の一人が海外亡命から戻ってきた時の恋人同志の再会というフィクションの部分であるが、もっとも印象的なシーンはドキュメンタリーの部分で街に出向いているところである。監督はさりげなくフィクションからドキュメンタリーへと転換させる。これは簡単に劇映画にすることができたかもしれないが、唯一ドキュメンタリーだけが占領された地域の中でのパレスチナ人の日常生活の真の緊張を捉えることができた。同時にクレフィ監督はドキュメンタリーの場面の暴力的な側面をより鮮明に浮かび上がらせるため、このカップルの会話を利用する。『石の賛美歌』のフィクションとドキュメンタリーは交錯し相互に浸透しあう。つまり、この映画の最大の魅力は一方が欠けては、考えられないということである。
(YIDFF ’91 公式カタログより)
監督のことば:
『石の賛美歌』は今日のパレスチナにおける人間の痛みについての映画である。
この映画のすべての主役の人々は占領の痛みから生き延びるため何かを犠牲にしてきた。それはあたかも人間がその尊厳をとりもどすためには何かを失うか、それとも暴力のばからしさに気がつく前に傷ついて参ってしまうという運命から逃れられないかのようだ。私たちが世界について考えをめぐらすことができるようになるには集団虐殺ぎりぎりのところまでいかなければならないのか? 犠牲者が死刑執行人にならない方法はないのか?
苦悩の中の愛の物語と事実の部分を併置することにより、他人を何か抽象的なものと認識することとは反対の映画的場面となっている。私たちが証言したかったことはそのような認識に抵抗することである。
ミシェル・クレフィ
『ロッツ・ゲットー』 16:10-(1回上映)
山形国際ドキュメンタリー映画祭 ’89 インターナショナル・コンペティション 上映作品
監督:アラン・アデルソン、キャスリン・ダヴェルナ/アメリカ/1989/103分
作品紹介:
ポーランド映画『無敵の人々』と同様、この作品もスチール写真とニュースフィルムから構成されており、淡々と、それでいてパワフルに、この時代の歴史を再現している。この作品のテーマは、第二次世界大戦とホロコーストである。ポーランドを占領したナチス・ドイツが、20万人のユダヤ人を強制収容所に集め、奴隷として使役する。この時、ゲットーにいたユダヤ人は年配の指導者に征服者の意のままになるよう、説得される。最後に生き残ったのは、わずか800人。ほとんどの者がだまされて死の列車に乗せられたとき、屋根裏や地下室に隠れることを選んだ者たちだ。映画製作者は、日記・手記・写真、そしてナチス自らが撮影したニュースフィルムを含む膨大な資料を、一種の“サスペンス・ドキュメンタリー”に仕上げている。ちなみにナチスの代弁者として利用された年老いた指導者の声を演じるイェジィ・コシンスキをはじめ、ナレーションはすべてプロの俳優によるもの。
(YIDFF ’89 公式カタログより)
監督のことば:
この作品は、フィクションとドキュメンタリーとをつなぎ合わせたユニークな作品である。見る人をすっぽりと包み込むドラマ感覚と、フィクションの特徴である明確なストーリー展開があり、登場する人々がフランクに語る声は存在感がある。そのようなフィクション的な面があるとしても、この作品は最も良心的に製作されたドキュメンタリー映画としての迫力とリアリティーを持っている。死を宣告された人々が生命をかけて撮影し、残した膨大な記録が、今から40年以上前に突然、鉄条網に囲まれた町に強制的に入れられ、奴隷のように使役された上、飢えに苦しみ、外界からの情報が手に入らない生活を強制されたことに、どのような意味と背景があったのかを理解する糸口を与えてくれるはずだ。
[会場]山形ドキュメンタリーフィルムライブラリー試写室
[料金]鑑賞会員無料(入会金・年会費無料)
[主催]認定NPO法人 山形国際ドキュメンタリー映画祭
[問い合わせ]電話:023-666-4480 e-mail:info@yidff.jp