プログラム:ヤマガタ・ラフカット! 「voyage」

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ヤマガタ・ラフカット!は今年の山形国際ドキュメンタリー映画祭から始まった新しい取り組みだ。名前のとおり監督が制作途中の作品を1時間にざっくりまとめてカットしたものを発表し、上映後、観客とともに議論を展開し、ともに映画を作って行くというもの。

山形美術館の3階にある会場に足を踏み入れると上映準備の真っ際中。スクリーンには編集用ソフトウェアの画面が投影され、映画がまだ制作の途上にあることが分かる。これから上映される映画について、またラフカットという企画自体についてもあまり予備知識を持たないままイベントに臨んだ。「1時間の尺に収めたことで作品はどういった印象になるのだろうか」「トークセッションでは、一体どのような議論がなされるのだろうか」漠然とした疑問を持ちながら、上映が始まった。

「voyage」は監督の池田氏と親交が厚いワールドミュージックの3人グループ「馬喰町バンド」のニューヨーク公演と、メンバーのひとりである土生(はぶ)氏がインドネシア人の妻と会話する日常を主軸としながら、突如名も無いカップルの同棲生活が終焉を迎える様(このパートのみフィクションである)が挿入され、3つの視点がそれぞれ唐突に入れ替わりながら淡々と進んで行く。バンドメンバーの笑顔が眩しく陽気なミュージックが奏でられる瑞々しいシーンに対し、同棲カップルのシーンはあてどなく不毛の会話が交わされ続け、淀んだ雰囲気が感じられる。

上映後のトークセッションではこのフィクションの部分についての意見が観客から多く出された。

「夫婦とカップルをもっと対比させて映画的なオチをつければもっと面白かった」

「フィクションのパートが構成に入っているとドキュメンタリーとして見られない」

池田監督は自身のプライベートで感じた、男女関係が気付かないうちに緩やかな終わりに向かって行く様を表現したかったと語った。タイトルである「voyage」は航海を意味するが、常にどこかへ向かって動いていることは良いことばかりではない。航海するということは漂流することに似ている、と。

監督の言葉を聞きながら、ラフカットという企画そのものがある意味仕組まれた映画の漂流なのではないかと考えた。観客と制作者たちに委ねられた議論はあてどない礼賛と批判と所感を行ったり来たりしながら深まりを見せて行く。海と同じように荒波があれば凪があり、それでもいつかはどこかにたどり着く。

「監督にとってのドキュメンタリー映画って何ですか?」

議論の終盤観客が投げつけたこの質問に鳥肌が立った。1時間半という時間でここまで本質的な議論に行くつくのか。回答に悩む監督の横顔を眺めながら、この新しい企画が山形国際ドキュメンタリー映画祭の中で定着し、長年続けられていくとしたら一体どこに辿り着くことができるのだろうと楽しみで仕方なかった。

執筆者:編集部 梅木壮一