今年は「山形国際ドキュメンタリー映画祭 2019」に向けた準備の年です
新年を迎えて早くも10日が過ぎようとしています。皆さんはどんなお正月を過ごされましたか?
映画祭事務局は昨年の慌ただしさとはうって変わり、ゆるやかに新年のスタートを切りました。まだ2017年開催の余韻として、残務整理や報告作業は続いていますが、年が明けたことで気持ちはすでに2019年の開催に向かっています。
昨年の「山形国際ドキュメンタリー映画祭 2017」では、8日間で161作品を上映し、22,089人の観客の皆さんに足をお運びいただきました。例年にも増して若い観客の参加がとても目立っていたこと、さらにコンペ部門の各受賞監督もとてもフレッシュな顔ぶれとなったことが印象的な映画祭でした。この映画祭の誕生が平成元年であったことを考えると(あれからおよそ30年!)、15回目の開催となった昨年はその意味でも一つの区切りであり、また次の時代の胎動を予感させるには充分な内容であったのではないかと感じています。次回2019年は新元号となるはずですから平成最後の開催だったということも、そうした感慨を後押ししているのかもしれません。
次の開催まで、あと1年と10ヶ月。なんて高を括っていると、あっという間にやってくるのが山形映画祭です。
準備年である今年を充実したものにしてこそ、来年の映画祭が魅力的なものになるはず。早速に気を改めて「山形国際ドキュメンタリー映画祭 2019」の準備に取り掛からなければなりません。
準備年になると「映画祭がない年は事務局は何をしているんですか?」とよく尋ねられます。そこで今回は、映画祭開催に向けた準備年の動きを大まかにご紹介したいと思います。
映画祭を準備していく中で基軸となる部分はいくつかありますが、最も重要なものとして挙げられるのはメインプログラムであるインターナショナル・コンペティションとアジア千波万波の作品募集に関する動きです。例年通りでいけば、作品募集は今年の9月1日からスタートします。それまでの間に、応募規約の見直しや(昨今の映画のデジタル化によって大幅な変更が必要となってきてまして、この部分はとても重要かつ慎重を要する作業です)、作品募集の告知を兼ねた「山形国際ドキュメンタリー映画祭 2019」ティーザーポスターほか、ポストカードなどの製作を行い、より多くの映画制作者の方々に届くよう、国内外およそ3,000~4,000箇所にこれらを送付します。
同時に海外の映画祭などに出向き、監督たちに直接会って応募を勧めていく作業を地道に行なっていきます。インターネットで容易に世界の様々な情報が手に入る現代にあってもなお、やはりこうした直接顔を合わせての応募の呼びかけは欠かせません。準備年の間にどういった作家や作品に出会えるかが、映画祭の内容を決定すると言っても過言ではないからです。
こうした動きが必然的に世界の最新の映画事情のリサーチに繋がっていき、特集プログラムを組んでいく上でのベースにもなります。ラテンアメリカ特集やアラブ特集、昨年のアフリカ特集など、地域に焦点を絞ったプログラムなどは、それぞれの国での映画製作状況の把握が重要であり、また人脈作りも必要不可欠なものです。作品募集の呼びかけの過程にある映画や人との出会いが、時に繋がり合い、ネットワークを形成し、それが特集プログラムを作る上でも役に立つんですね。
また逆にその新しいネットワークや出会いがコンペ部門への応募状況にも変化をもたらす場合ももちろんあります。地域特集で取り上げる国々からの応募が極端に多くなる、なんていうケースも多々あり、これこそまさに地道な声がけが活きた好例と言えるでしょう。
さらに、ポスターやポストカードを利用した紙媒体での告知や公式ウェブサイト上での情報発信などを通して作品募集を呼びかける活動は、映画祭本番の開催告知にも繋がっていきます。なにぶん2年に一回の開催ですから、準備の年はどうしても映画祭の存在が忘れられがちなんですね。ですから「作品募集開始」という話題を発信しながら、翌年の10月に映画祭があることをアピールしていきます。また、前年の映画祭での上映作品の一部に新規プログラムを加えた東京での上映企画「ドキュメンタリー・ドリーム・ショー 山形 in 東京」をプレイベント的に開催することで、いよいよ“ヤマガタ”の年がやってくる、という機運を盛り上げます。
こうして作品募集が始まると、同時に予備選考もスタートします。インターナショナル・コンペティションでは15作品、アジア千波万波ではおよそ20作品を選出するために、映画批評家や映画研究者、映画祭事務局、そして山形市民で構成された選考委員が、まずは送られてきた作品をひたすら観ることになります。
この予備選考には、1作品につき最低でも2人は必ず視聴する、早送り等の操作厳禁、どんな作品でも全編通して観る、という厳格な取り決めがあります。そして鑑賞した作品ごとに評価コメントを書き、それらを全員で共有します。ここ数年での平均応募本数は両部門あわせて2,000作品ほど、一人当たりおよそ300作品がノルマです。この選考スタイルは、応募作品にひとつひとつ誠実に向き合い、個々の選考委員がそれぞれ「作品を選ぶ」ことの責任をしっかり担うという意味において、開催1回目より一貫して守り続けてきた山形映画祭の精神をあらわしていると言えるかもしれません。
およそ6ヶ月に渡る作品視聴を通して、何度も議論を重ねながら上映作品を絞っていきます。喧々諤々の意見のぶつかり合いになることもしばしばですが、こうした過程を経て選出される各コンペ部門の作品は、山形映画祭のその年の顔として自信を持ってお勧めする魅力的な作品群になるはずです。次回2019年映画祭のインターナショナル・コンペティションの上映作品発表は同年6月、アジア千波万波は7月になる予定です。ちらほら伝え聞こえる作家たちの新作完成の報せに、これからどのような作品が集まってくるのか、期待感が高まります。まだずっと先になりますが、作品発表の時期を楽しみにお待ちください。
さて、ここまでのところでは映画祭開催に至るまでの準備について大まかな流れをお伝えしてきましたが、映画祭事務局の仕事はこうした開催準備ばかりにとどまりません。これらに同時並行する形で「映画」を通した様々な活動も日常的に行なっています。
毎月2回開催の「金曜上映会」をはじめとする主催上映会はもちろん、これまでの映画祭への応募作品のほぼ全てを収蔵する「山形ドキュメンタリーフィルムライブラリー」の運営と、非営利上映用貸出権利をもつコンペ・アジアの過去上映作品の管理(上映申込受付と作品の送付、権利者への貸出収益の送金など)を続けています。また、山形県内に眠る8mmや16mmで撮影された古いフィルムを発掘、調査し、昔の山形の暮らしを伝える貴重な記録映像をデジタル保存したり、自主上映やイベント上映に関するコンサルティングや請負映写、山形大学や東北芸術工科大学と連携した教育・研究活動などなど、多岐にわたる公益的活動を行なっています。
若年層への映像教育活動にも特に力を入れており、これまでは子どもたち(幼児、児童)を対象とした映像制作ワークショップや映画教室を中心に行なってきましたが、昨年より高校生と一緒に映画祭や自主上映会を作る活動にも取り組むようになりました。大人は一切口を出さず、高校生たちだけで作り上げる自主上映企画は、驚きと発見があり、逆に私たちが様々なことを学ぶ機会になっています。
こうした山形をベースに展開する映画・映像にまつわる活動は、山形市民県民の皆さんに、より身近に映画・映像文化に親しんでいただく機会となり、「山形国際ドキュメンタリー映画祭」へのより深いご理解とご支援につながる重要なものであると考えます。地元の皆さんの多くの支持があってはじめて、山形県内はもちろん、県外、海外からやってくる多くの観客の皆さんに楽しんでいただける充実した映画祭を作り上げることができるんですね。
山形市のユネスコ創造都市ネットワーク加盟を追い風にして、山形市民としっかりと繋がりながら、これまで以上に挑戦的で先鋭的な国際映画祭となるよう尽力してまいります。今年もご支援のほど宜しくお願いいたします。
次回の「山形国際ドキュメンタリー映画祭 2019」にどうぞご期待ください!
(文責:山形映画祭事務局)