みどころ

日本の今を、様々なアプローチでみせるプログラム。ドキュメンタリー映画の垣根を越え、多様な表現で現実に対峙した意欲作5本を上映。

ブラック企業と戦う一人の労働者を中心に描かれる人物ドキュメンタリー『アリ地獄天国』(2019)。長時間労働を強いられ、事故や破損を起こせば借金漬けに陥るまさに“アリ地獄”。この状況に意義を唱え、一人でも加入できる労働組合に加入するが、配転を通告されついには、懲戒解雇に追い込まれる。現代日本の労働社会の闇が映し出される。

脚本の読み合わせ、リハーサルなど役者の演技獲得までのプロセスを追った『王国(あるいはその家について)』(2018)。同じ場面が何度も繰り返され、発話や身体の変化を緻密な構成で描く、ドキュメンタリー映画として新しいアプローチの一作。

東日本大震災後、陸前高田災害FMでパーソナリティーとして人々の記憶と思いを届け続けた女性を親密な距離で綴る『空に聞く』(2018)。津波が去った街の復興に並行して、嵩上げされた土地に新たな街が次々に造成されてゆく。震災から街が復興していく様子を静謐なカメラで捉えた一作。

太平洋戦争末期、米軍が上陸し民間人20万人以上が死亡した沖縄戦の知られざる歴史に迫る『沖縄スパイ戦史』(2018)。少年年ゲリラ兵士部隊、マラリア地獄、味方による住民虐殺、陸軍中野学校出身の青年将校たちによる関与。沖縄戦最大のタブーに切り込み日本の再軍備化に警告を鳴らす一作。

昭和、平成、令和。多摩川の干潟でシジミを獲りながら捨て猫と暮らす老人の人生を通して、東京オリンピックを前に劇的に変わりゆく東京の街を捉えた『東京干潟』(2019)。時代の移り変わりが彼の人生に重ねられ、次第に環境破壊、高齢化社会、貧困問題、ペット遺棄、生物多様性など、現代日本が抱える様々な課題が浮き彫りになる。

『王国(あるいはその家について)』Domains

監督:草野なつか/日本/2018/150分

『空に聞く』Listening to the Air

監督:小森はるか/日本/2018/73分

『アリ地獄天国』An Ant Strikes Back

監督、撮影、編集:土屋トカチ/日本/2019/98分

『東京干潟』Tokyo High Tide

監督、撮影、編集、録音、提供:村上浩康/日本/2019/83分

『沖縄スパイ戦史』Boy Soldiers: The Secret War in Okinawa

監督、ナレーション:三上智恵、大矢英代/日本/2018/114分